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2015-08-02

ヴァーチャルな身体からリアルな身体へ

2014年に出版された『表参道を歩いてわかる現代建築』のために書いた文章です。この本は、米田明、押尾章治、後藤武といった建築家の皆さんと現地取材をしてつくりました。同書では、この伊東豊雄論のほかに、トッズやテピア、サニーヒルズジャパンなど、全部で9本の原稿を執筆。先にアップした伊東さんへのロングインタビュー(workのコーナーにあります)とあわせて読んでいただけると幸いです。

 

かつての伊東建築には、軽やか、透明、ヴァーチャル、映像、エフェメラルといったようなキーワードとともに語られることが多かった印象があります。たとえば、代表作のひとつであるシルバーハットは、RC の柱にスチールフレームとアルミパネルの屋根を架けたもので、軽やかで透明度の高い建築表現が特徴的でした。伊東氏にはノマドという名のバー作品がありますが、軽やかな移動や漂流のイメージとも重なる作品群は時代の先端的な空気を見事にとらえたものであったと言えるでしょう。

しかし、2000 年竣工のせんだいメディアテークで目指す方向が大きく変わります。この建築は、6層の建物がガラスでぐるりと包まれていて、外からは薄い床が6枚上へと重なる様子がよく見てとれます。ということは、外壁部分ではなく内部の柱か壁が構造体となるわ けですが、この建築ではユラユラと角度と太さを変えながら床を貫通しているモノがそれに当たります。この鋼管を組み合わせてつくられたチューブと呼ばれる構造体が柱の役割を果たしていて、透明なファサードと薄い床とともにこの建築の大きな特徴となっています。

透明さと軽やかさは前の時代から引き継いだものと言えますが、このチューブが与える力強さ、迫力は以前にはないものでした。伊東氏は、建設途中で建築のもつ生々しい物質性に触発され身体性に覚醒したと語っていますが、この覚醒によって伊東建築は大きな転機を迎えます。すなわち、ヴァーチャルな身体からリアルな身体へ――2004年のトッズ表参道ビルもこの方向転換の線上でつくられることになります。

この身体性は、動物的とも言える人間のプリミティブな部分へとアピールするもので、洞窟や内臓のような有機的フォルムの内部空間をもつ台中メトロポリタン・オペラハウスにおいても、つくるための方法論は違っても、同じ方向性が追求されていると言えるでしょう。

伊東氏は同じ頃から「新しい抽象」という言葉を使うようになりますが、20世紀的な、自然との関係を立ち切ってしまう抽象ではなく、自然とのある種の関係性を結ぶ抽象表現によってそれを実現する。身体性への注目もこの試みの射程内に当然入ってくるものととらえていいでしょう。

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